猫と就活とステレオタイプ

今週のお題「ねこ」

 

1.就活でよくある(?)質問 

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面接官「...ありがとうございます。それでは、次の質問に答えてください。」

就活生「はい!」

面接官「あなたを動物に例えると何ですか?」

就活生「...えぇと...」 

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私が就活していたときには遭遇しなかったし、もしかしたら都市伝説のようなものなのかもしれないが、これは就職活動などの面接で定番とされている質問だ。 

 

「あなたを動物に例えると?」

 

この質問は、以下のような観点で就活生を試していると思われる。

・一見就活に関係なさそうな奇抜な質問に、とっさに対応できるか

・自分の性格や行動を客観的に把握しているか

・それを動物に例えて相手に伝えられるか

 

なかなかどうして、難しい質問だ。

 

この質問に対しては、アピールしたい自分の性格・特徴を、その性格・特徴を思い起こさせる動物の力を借りて、相手に伝える必要がある。

 

動物によって想起される典型的なイメージ。

犬なら、協調性や誠実性

イルカなら、協調性や好奇心

ライオンなら、責任感や判断力

といったところだろう。

 

これらのイメージは、広く世間一般で認知されている。その「共通認識」を架け橋にして、相手に自分の性格を伝えるわけだ。

 

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就活生「...(協調性があることをアピールしたい...ここは、コミュニケーションをとりながら円滑に集団行動することで知られるイルカだ!)」
就活生「イルカです。私は大学の〇〇部で...(エピソード挿入)...だからイルカです!」

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2.実家で飼っている猫たち

 

話は変わるが、私は実家で猫を2匹飼っている。

1匹は、10歳を超えた高齢の♀。名前はトゥー(仮称)。

1匹は、6歳くらいでやんちゃ盛りの♂。名前はシュー(仮称)。

 

この2匹、まったくもって性格が違う。

 

トゥーは、マイペースで、人と一定の距離を保ちながら生きている。10年以上一緒にいるが、ベタベタ甘えてくることはほとんどない。普段はお気に入りの場所でゴロゴロして、お腹が空いたときだけ人間の足元にスリスリしてくる。

 

一方、シューは、とにかく元気で人懐っこい。いつも顔をスリスリと擦り付けてきて、なでてやると嬉しそうに目を細める。寝ているときと、トゥーとプロレスごっこをしているとき以外は、とにかく人間のそばに寄ってくる。

 

全く性格の違うトゥーとシュー。仮に、この2匹を社会人に例えるならこうなるだろう。

 

トゥーは、周りに挨拶もするし集団行動もとるけど、基本的には1人で行動し、群れをつくらない。自分のやるべき仕事にもくもくと打ち込む。

 

シューは、周囲とコミュニケーションを積極的にとり、職場のムードメーカーになるタイプだ。とにかく甘え上手なので、上司や先輩にも好かれやすい。

 

同じ猫でも、この2匹は全然違う。シューはどこの会社でも面接は突破できそう。トゥーは出版や編集の仕事が向いてそうだ。


3.ステレオタイプ 


冒頭の会話に戻ろう。

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面接官「...ありがとうございます。それでは、次の質問に答えてください。」

就活生「はい!」

面接官「あなたを動物に例えると何ですか?」

就活生「...えぇと...」 

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この就活生は、いったい何と答えるのだろうか。どの動物をチョイスするのだろうか。

 

「ステレオタイプ」という言葉がある。例えば、「A型はまじめ」「オタクはデブでメガネをかけている」など、正しいかどうかはさておき、所属する社会や集団内に浸透している考え方・物の見方・典型的で固定されたイメージのことだ。

 

「あなたを動物に例えると?」「犬です。なぜなら…」という質疑応答も、質問者と回答者との間に、犬についての共通のイメージ(従順、協調性がある)が存在するからこそ成り立つ。

 

ステレオタイプには、良い面もあれば悪い面もある。心理学の分野では「認知資源の節約」という言葉でそのメリットが語られている。私は専門家ではないのでそちらの説明は割愛するが、ことコミュニケーションの場面に限っていえば、ステレオタイプのメリットは「伝達速度の速さ」「相互理解の促進」だと思う。

犬について「従順」「協調性がある」というステレオタイプな認識があるからこそ、就活生は面接官に協調性をアピールすることができる。また、全く別の例になるが「国家の犬」「政府の犬」なんて言葉を使って人をののしるとき(めったにない場面だが)、その言葉に込められた「従順性」を揶揄する意図を理解することができるのは、「犬は飼い主に従順だ」というステレオタイプな認識のおかげだ。

 

そしてもちろん、ステレオタイプには悪い面もある。例えば「黒人は攻撃的」。黒人と言っても1人1人違うし、全体としてそんな傾向があるのかも分からないし、何をもって攻撃的というのかもよく分からない。しかし、こうしたステレオタイプに固執する人も世の中にはいて、それが差別や偏見につながっている。

 

私たちが生きていく上で、ステレオタイプ的なものの見方は大切だ。「あなたを動物に例えると?」と訊かれたら、ステレオタイプの力を借り、相手に自分のアピールポイントを円滑に伝えよう。

 

そして、ステレオタイプにとらわれないものの見方も大切だ。偏見や決めつけに近い言説を見た時は、少し立ち止まって冷静になってみよう。

 

黒人にも白人にも、アメリカ人にも日本人にも、A型にもO型にも、きっと色んな人がいる。同じ猫でも、我が家のトゥーとシューが全然違うように。